(12)学校探し、再び《9月―頭の痛い季節》 ~2003年9月の記録 ∬第12話 学校探し、再び 上の娘の音楽教室については、その後なにひとつ進展していなかった。 得られるならどんな小さな情報でもいい。なんらかの打開策になればと、アクデニズ大学構内にあるコンセルヴァトゥワル(国立音楽学校)の門を叩いた。 学校探しを始めてすぐに訪れた音楽教室で言われたひとことが、頭の中に残っていたからだ。 「ためしに、コンセルヴァトゥワルに行って聞いてごらんになったらいかがですか?音楽教育を受けさせたいのだが、どの教室が良いか、と」 人気のない玄関ホールに入り、誰か人はいないかと声を掛けると、秘書兼事務担当と思われる女性がお手伝いしましょうと、部屋に通してくれた。 ここへ来るまでの経緯を話すうち、その女性は「xxxのお母さんでしょ?先日の懇談会に出席していたので覚えてますよ」と、娘の名前を出してきた。偶然にも下の娘の同級生のお母さんだった。園の話をするうち、すこしずつ緊張の糸がほぐれてきた。 「どこかアンタルヤで良い音楽教室をご存じないかと思ってやって来ました」と言うと、 「ムドュル(校長)なら良くご存知だと思います。ムドュルにご紹介しましょうか?」 そう言って席をはずすと、校長の都合を尋ねてくれたらしく、すぐに校長室に通された。 自己紹介の後、上の娘が音楽教室を辞めるまでの経緯を話し、どこかでソルフェージ(音階教育)とピアノを習わせたいのだが、どこか良い教室をご存じないかと尋ねてみた。 「読み書きがまだ出来ないのなら、学校に通わせるにはまだ早い。誰か良い教師を見つけて、個人的に習わせる方がいいだろう。 そう、今度イズミールから新しい女性の教師が来るから、彼女に一度会ってみるといい。土曜日の11時にここに来なさい。紹介しましょう」 考えてみれば、ここは国立音楽学校。アンタルヤで音楽教育を受けさせたいなら、ここほど相応しい場所はないだろう。ここで、良い教室はないかと聞くほうが失礼だった。 教師を紹介するといわれて無下に断る理由もなかった。 まず一度会ってみて、感じの良い人物で、かつ許せる月謝の範囲なら、通わせてもいいと瞬時に判断した。 なにより、ここは自宅からドルムシュに乗って5分ほどの場所にあった。通うのに何の不都合もなかった。 まだ当人に会って話をする前から、すでに心の半分が傾きかけているようだった。 つづく ∬第13話 助言 ジャンル別一覧
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